犬 歯科症例 5ページ目



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歯周病により失われた歯槽骨再建の試み


 

歯周病が起こると、その炎症反応から逃れて骨を守るために、体は骨を吸収する細胞を出して歯槽骨を吸収していきます。
その結果、歯周病の歯の周りには大きな骨欠損ができてしまいます。
失われた骨を再生させるのは至難の業ですが、さまざま方法が試みられています。


処置前 犬歯とその後ろの歯の歯周病により大きく骨が欠損している状態です。
治療でもっとも大切なことは、歯についている歯石や歯垢などの汚れ、細菌を丁寧に取り除き、周囲の炎症を起こした歯肉をキレイに切除することです。






処置中 その上で、骨が再生するための足場として骨補填剤を使用しました。
穴が開いた場所に骨補填剤を入れることで、歯肉が入り込んで骨の再生を邪魔することを防ぎます。








処置後 歯肉を縫合し骨が再生できる環境を作ります。
歯肉が付着しなかったり、感染を起こしたりするなどのリスクはありますが、上手くいけば骨が再生し、この歯は抜かずに使用することができます。








一度歯周病になった歯は、最初の状態よりも歯周病を起こしやすくなっています。
継続的なケアは不可欠となります。
炎症が無い状態を維持できなければ、再処置や抜歯が必要になります。


萌出障害により歯肉弁蓋が残った症例


 

子犬で歯の萌出(生え変わり)の時に、乳歯が抜けなかったり、歯が出てくる力が弱かったりすることがまれにあります。
その場合、永久歯が正常な位置に生えてこなかったり、歯茎の下に埋もれてしまったりすることがあります。
成犬、老犬になった時にその歯が問題を起こす場合もあるので、できるだけ正常な状態に近づけてあげる処置が有効です。




処置前309 左下第一後臼歯(309)の近心(鼻先側)の歯冠に歯肉が残ったままになっています。
このままにしておくとゴハンが上手く噛めなかったり、痛みを生じる可能性があります。





処置中309 余分な歯肉にメスを入れて、正常な高さまで切り取ります。
舌側も覆われていたので、全周キレイに切除します。







処置後309 切除後の状態です。









処置前409 反対側の409も同様の状態になっていました。









処置後409 口腔内は血流が豊富なので切った後の傷は早期に治癒します。









子犬の歯の異常は半6〜7カ月齢くらいで分かることが多いので、去勢や避妊手術の際に同時に処置を行うことで、体への負担を抑えることが出来ます。
小さなうちから口の中の状態を気にかけることが大切です。










歯周病から重度の口内炎を起こしていた症例


 

歯石や歯垢が長年付着していると、周囲に炎症を起こします。
この時、歯肉に炎症が起こると歯周病になりますが、頬粘膜にも炎症が波及し口内炎になる事があります。
口内炎は歯周病に比べて痛みが強く、食欲不振や元気消失、触れることを嫌がるなどの症状が出やすいです。



処置前 右上顎の臼歯(108、109、110)に歯石、歯垢が重度に付着し、一部化膿しています。
そこに接していた頬側の口腔粘膜が赤く腫れあがり、口内炎を起こしていました。
疼痛が激しく、触れられることを極端に嫌がっていました。







処置後 罹患歯を抜歯しました
頬粘膜がポコポコと腫れており、周囲が赤くなっているのがわかります。








抜歯後、数日で痛みが治まり、食欲が改善しました。また、高齢犬だったのですが元気もかなりでてきました。
年齢のために活動性が落ちていたように見えていましたが、実際は痛みの為だったようです。
口内炎がある場合は適切な処置、治療をすることでかなり生活の質が上がると思われます。



犬歯の口蓋側(内側)にできる深い歯周ポケットの症例


 

犬歯の内側は歯磨きが届きにくい部分であり、外からも見えにくいことから、知らぬ間に歯周病が進行しやすい場所です。



右処置前 右上犬歯の内側の歯肉をめくると、深い骨欠損がみられました。
正常ならば、歯肉の下には骨が見えるはずですが、空洞になっています。
この空洞には、歯石、歯垢、膿、上皮などが溜まっており、慢性的な炎症を起こしていました。




左処置前 左側の犬歯も同様に骨の欠損がありました。











右処置後 中にたまっていたものを丁寧に除去した後、自然に出血した血液で中を満たします。
剥がした歯肉を縫合して処置を終えました。
骨が再生すれば最も良いですが、たいていは上皮の侵入が早いので空洞は歯肉で埋まってしまいます。
丁寧な歯磨きを継続できれば、この状態でも長期間良好な状態を保つことが出来ます。




左処置後 左側も同様の処置を施しました。








見た目は大丈夫そうでも、プローブ(ポケットの深さを測る道具)やレントゲンで検査をすると隠れたポケットが見つかることがあります。
くしゃみや鼻水などの鼻炎症状を起こしている場合は、この犬歯の内側のポケットがある場合があるので、注意が必要です。



短頭種に起こりやすい歯周病の症例


 

ブルドック、パグ、ボストンテリア、ペキニーズなどの鼻が短い短頭種と呼ばれる犬種は、頭蓋骨の構造上、歯並びが悪くなってしまう事が非常に多いです。
前後の歯と重なって生えていたり、正常な方向とは90度回転して生えてしまうことにより、その部分に汚れが溜まり、歯周病を引き起こしてしまいます。


左処置前 今回の紹介するのはボストンテリアの症例です。
歯全体に歯石が蓄積し重度の歯周病を起こしていました。
歯根が露出するほど進行した歯周病に罹患していた歯を抜歯し、残りの歯はスケーリングを行いました。





左処置後 抜歯、歯石除去後の状態です。
上顎第3前臼歯が90度回転して生えています。
また下顎第2前臼歯から第1後臼歯まで重なってしまっています。
これは頭蓋骨の鼻の部分が短いため、歯が正常な歯列で生えるスペースがないために起こる現象です。
このような歯は清潔に保つことが難しいため、歯周病に対して非常に弱いのです。







今回のような状態の歯は短頭種であればどの犬種でも起こり得ることです。
また、短頭種ではなくても歯が正しい向きに生えなかったり、重なって生えてくることはあります。
管理は難しいですが、できる範囲で歯磨きなどのケアを続けることが重要です。




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