
スキンケアの目的
アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎、脂漏症などの皮膚病を患っている犬にとってスキンケアはとても重要です。
スキンケアはこれらの皮膚病の犬に対して、強力な薬を使用せず皮膚のコンディションを良好に保つことを目的として行われます。
皮膚炎や感染症がある状態に対しては薬物療法で治療し、その後の良好な皮膚状態を維持するためにスキンケアを行います。
スキンケアの方法
【1】皮膚の有害物質の除去(洗浄)
犬の皮膚の代謝は人とほぼ同じで、毎日角質層が垢として脱落し、体表の油脂や毛に残留しています。犬の油脂は人と違い固形成分を多く含むため、
より協力に汚れを付着させ、多くの毛によってどんどん堆積していきます。これらは過酸化脂質となり強力な皮膚刺激性物質に変化すします。これらが『内的な汚れ』です。
また犬の体表の油脂、毛は環境中のダニ、微生物、化学物質を付着させます。これらが『外的な汚れ』です。
さらにコンディションの悪化した皮膚では『病的な汚れ』が混在します。
【2】皮膚への有益物質の添加(保湿剤など)
保湿は重要であり、シャンプー後には必ず行われなければなりません。シャンプー後の皮膚は汚れ物質が除去されると同時に皮膚に有益な脂成分も除去され、
皮膚のバア機能が低下した状態になっているため、保湿成分を与えます。
バリアとして働く油脂と水分を含むための天然保湿因子、ある程度の効果を有する化学物質が添加されます。有効と思われる天然保湿成分はヒアルロン酸であり、
その誘導体であるグリセリン、ヘキサンジオール、カプリルグリコールなどの各種ポリオール、バリアに有効な油脂はセラミドやフィトスフィンゴシンなどの各種角質細胞間脂質です。
スキンケアの理論
皮膚構造に異常がおこる病気『アトピー性皮膚炎』『食事アレルギー』『脂漏症(ベタベタ肌・カサカサ肌)』などの、根治ができない体質をもった犬に対して、症状の軽快あるいは進行の抑制ができると考えられます。
犬の体表は様々な微生物や有害物質、乾燥などから体を守るために角質細胞が積み重なってできた角質層で覆われています。角質層の役割は『生体のバリア機能』と『水分保持の機能』に大別されます。これら二つはよく相関し、バリア機能が低下した皮膚は細胞の恒常性維持に必要な水分も失いやすいくなります。
正常なバリアを作るためには正常な皮膚の代謝が必要であり、そのために十分な水分が必要です。角質の水分は天然保湿因子(Natural moisturizing factor:NMF)に保持されており、角質細胞の柔軟性に寄与しています。さらに角質細胞間に脂質(スフィンゴ脂質:主成分はセラミド)がサンドイッチされており、
角質細胞がぴったりとシート状にくっついて何層にも重なり強力なバリアとなります。
アトピーではNMFの形成に問題があるため角質内の水分が減少し、正常な角質層が形成できないためバリアが破綻しています。また、セラミドの量的、質的異常により脂質の減少も起こっていることも、バリア破綻の原因とされています。
バリアがなくなると、微生物やアレルゲンが皮膚に侵入しやすくなるとともに、皮膚の水分がどんどん蒸発してしまい、痒みや炎症の原因となります。
大部分の皮膚疾患は、有害物質を除去し有益物質を添加する的確なスキンケアによってで皮膚コンディションを軽快させることができます。特にアトピー性皮膚炎と脂漏症においては多くの場合、劇的な効果を観察することができます。
スキンケアに何を使うか 〜洗浄剤と保湿剤の選択〜
汚れを落とすためには界面活性剤が使用されます。そしてすべての界面活性剤はある程度の毒性を有します。昔は単純にナニナニが入っているから有害という考え方でしたが、今日ではどんな化学物質でも一定量を超えて暴露しなければ有害ではないという考え方をします。
つまり『何が入っているか』ではなく、『何がどのくらい入っていて、どのくらい残留するか』という考え方が重要となります。
シャンプーでは、毒性物質、刺激性物質を可能な限り含有させない、量を減らす、残留させないものが理想です。
【水溶性汚れの洗浄(泥、ほこり、花粉、など)】
外部から付着した泥、ほこり、花粉、などの汚れは温水や一般的なシャンプーで除去できます。ただし皮膚の状態に応じて使用する製剤を変える必要があります。
重症の皮膚病の場合は温水のみで洗浄し、中程度の皮膚病の場合は低毒性かつ低刺激のシャンプーで洗浄し、そして健康もしくは軽度の皮膚病の場合は一般的な洗浄用シャンプーを使用して洗浄します。皮膚の状態は、セロハンテープを用いた皮膚の検査により角質細胞の状態を見ることで判断します。
【油性汚れ(油脂、ワックスエステル)】
アトピー性皮膚炎や脂漏症などが原因で蓄積している異常角質の除去や短縮している皮膚ターンオーバーの改善を目的として角質溶解性シャンプーが使用されます。成分はイオウ、サリチル酸、コールタール、過酸化ベンゾイルなどです。強力な刺激性と脱脂作用があるため、シャンプー後は必ず保湿剤を使用します。
他にエチルヘキサン酸セチル、ホホバ油、ラウロイルアルパラギン酸Naなどの天然成分由来を使用した低刺激のスキンクリーニングオイルやスキンシャンプーも使用できます。これらの成分はすべて化粧品登録済みなので人の肌にもやさしく、口に入れても問題はないとされています。
【殺菌・静菌】
抗菌性シャンプーの成分として細菌性皮膚炎に対してクロルヘキシジンが有効であり、マラセチアなどの真菌にはミコナゾール、ケトコナゾールなどの抗真菌剤や2%以上のクロルヘキシジンが有効です。
殺菌消毒剤は蛋白凝固作用や酸化力により殺菌力を発揮しますが、同じ作用を犬の皮膚や洗浄者の手に対しても与えるため、皮膚コンディションの悪化を招くこともあります。感染性皮膚炎の時は非常に有効ですが、洗浄のみに使用するときは必要はありません。
まれに過敏症を起こすことや皮膚の状態が悪い時には赤く腫れるなどの有害事象が起こることもあるので、そういったことが起こった場合には使用を中止します。
【保湿】
シャンプーで汚れと同時に皮膚に洗い流された有益な脂成分を補充してバリア機能を保つために保湿成分を与えることは重要です。
保湿成分には非常に多くのものが含まれ、製剤にも保湿性シャンプーと保湿剤のみ製品がある。保湿剤入りシャンプーやリンスインシャンプーなどは界面活性剤と保湿剤が結合しており、界面活性剤が体表に残留する可能性があるため、コンディションの悪い皮膚ではシャンプー後に保湿剤のみの製剤を与えるのが望ましいです。
主な保湿成分にはセラミド、ヒアルロン酸、グリセリン、プロピレングリコール、乳酸、尿素、マイクロパール、スフェルライト、リピジュアなどがあります。
それぞれの症状に合わせ、使う製剤とスキンケアの回数を決定します。
紹介していない製品もありますので、皮膚症状でお悩みの方は一度ご相談ください。