犬 歯科症例 2ページ目
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乳歯遺残の子犬の症例
犬の乳歯は生後5〜7か月目で順番に抜けていき、永久歯へと生え変わりますが、まれに乳歯が抜けずにそのまま残ってしまうことがあります。
特にチワワやトイプードルなどの小型犬ではその頻度が高いようです。
抜けずに残っている乳歯を放っておくと、咬み合わせが悪くなる不正咬合になったり、歯垢・歯石が蓄積しやすくなり歯周病になる危険が高くなります。
生後7か月目に歯科検診を行い、残っている歯があれば抜歯を検討する方が良いと思います。
今回は7か月齢のチワワで乳歯遺残がありました。
この写真では犬歯と臼歯が残っているのがわかります。
下顎には、二本の臼歯が残っていました。
この子はハミガキの度に出血があるとのことでしたが、乳臼歯の歯根がほとんど吸収されており、グラグラしていたのでそこに歯ブラシが接触すると出血していたようです。
痛みや不快感、出血をなくすために抜歯を行いました。
抜歯された乳歯です。
犬歯はやや歯根が残っていましたが、臼歯は歯根がありませんでした。
不要になった乳歯を抜くことで口腔内が正常な状態に保たれ、永久歯の健康を守ることが出来ました。
犬歯の破折に対して抜歯を行った症例
犬の破折歯の部位は犬歯も比較的多く見られます。
強い力で硬いものを噛んでしまったときに先端や根元から折れてしまうことがあります。
今回の症例の原因は不明ですが、犬歯が根元から折れてしまい歯髄が露出していました。
右下犬歯が破折し、歯髄が見えています。
歯冠がほとんど残っていないこともあり、今回は抜歯を選択しました。
抜歯後の写真です。
歯肉と粘膜を剥離し、下顎骨を削って抜歯を行いました。犬歯の歯根は長く深く埋まっているので抜歯は非常に困難で時間がかかります。
抜歯後は歯肉を縫合して終了しました。
重度歯周病(ステージ4)のヨーキーの治療
犬の歯周病は、その重症度からステージ0〜ステージ4に分類されます。
それぞれのステージに応じて治療方法やその後の予防方法が選択されますが、ステージ4では多くの歯がすでに保存く可能な状態であることが多く、
多数の歯を抜歯することになります。
歯を抜くことをかわいそうだと感じる人は多いですが、歯周病に罹患している歯を抜くことで、動物は苦痛から解放され快適な暮らしをすることが出来ます。
また、たとえ一本も歯が残らなかったとしても、動物はその状態に良く適応し、食事をとることが出来ます。
痛みを感じている歯をずっと残したまま生活をしていくことの方が、動物にとって不快で苦しい場合があります。とても悪そうな歯を見つけたら早めに治療をすることをお勧めします。
そして、もっと良いのはステージ4になる前の段階で治療を受け、適切な予防をすることで歯を健康な状態で残すことです。
歯周病治療前の状態です。
口臭がかなり強くあり、触ると嫌がったので痛みが強いことが示されました。
多くの歯が歯石で覆われており、歯肉の退縮も重度に起こっていました。
歯肉は少し触るとすぐに出血し、重度の歯肉炎を起こしていたのがわかりました。
また、歯の動揺も重度であり容易に抜歯することが出来ました。
抜歯後の歯です。
ほとんどの歯を抜歯しなければならない状態でした。
重度の歯周病に罹患した歯では、歯根の先まで歯肉で覆われているのがわかります。
1週間から2週間ほどで抜歯した部位は治癒し、痛みがなくなります。
また原因となる歯がなくなったので口臭も改善します。
一部のみ重度歯周病に罹患したマルチーズの治療と経過
前回の記事で、犬のステージ4歯周病を紹介しました。
その時の症例は歯全体が歯周病に侵されていましたが、今回は一部のみ重度歯周病に罹患していました。
左上顎の切歯から犬歯の状態です。
第一切歯から犬歯までステージ4の歯周病で重度の歯の動揺が見られました。
おそらく犬歯に発症した歯周病が進行したのと同時に、隣接する切歯に感染が広がっていった可能性があります。
その他の歯には大きな異常が見られなかったことから、この部分の構造や唾液の分泌状態など歯周病が悪化しやすい環境にあったものと思われます。
ステージ4罹患歯はすべて抜歯しました。
フラップを形成し、吸収糸で縫合しました。
抜歯した歯です。
歯根まで歯石が沈着し、一部の歯根は吸収されていました。
このように重度の歯周病を起こすと、外部吸収が起こることがあります。
抜歯後2週間後の状態です。
フラップは完全に癒合していました。
黒く丸いものは縫合糸です。数週間で溶解してなくなります。
口腔内は血流が豊富なので傷の治りは驚くほど速いです。術後3日くらいで普段と変わらない様子になり、食事も問題なくとれていました。
エナメル質および象牙質欠損の修復を行った症例
歯の構造は犬も猫も人もだいたいは同じです。
歯の一番内側には神経・血管などが通っている歯髄があり、その外側を象牙質が覆っています。そして、歯冠部の一番外側をエナメル質が覆っています。
このエナメル質は無機質でほぼカルシウムとリンでできており、からだの中で一番硬い物質です(骨よりも硬い)。エナメル質はいったん失われると二度と元通りにはなりません。
象牙質は神経が通っており、欠けたり刺激があったりすると新たに増殖することができる生きた構造物です。象牙質の成分はほぼ骨と同じです。
象牙質には象牙細管と呼ばれる目には見えない小さな穴が開いています。その穴ひとつひとつに感覚神経があり、痛覚を感じます。
犬における象牙細管の数は1平方mmあたり5万本で、人の約2倍に相当します。(つまり、人よりも強く痛みを感じるはず)
エナメル質が欠損して、象牙質が露出すると象牙細管の神経が外界からの刺激によって痛覚を感知し知覚過敏になります。知覚過敏は犬や猫においてとても多く発生してるのにもかかわらず、
犬や猫はその痛さを上手に表現することができないのでまったく気づかれずにいるため、多くの症例で診断や治療がされていません。また、象牙細管から口腔内の細菌が侵入し歯髄や根尖に感染を起こすこともよくあります。
もしもエナメル質や象牙質の欠損をみつけたのなら、修復や抜歯などのなんらかの処置をしてあげる必要があります。
今回は犬歯の歯茎部にエナメル質の欠損があった症例に遭遇しました。
おもちゃを噛んで遊んでいたときに欠けてしまったようでした。
欠損した部分を酸で処理した後、ボンディング剤を塗布し、光重合レジンで固めて修復しました。
しかし、同じような生活をしていると再び欠けてしまうことが予想できるので、この後は犬には歯が欠けない程度の硬さのおもちゃを与えるのが良いです。具体的には指で押した時に凹むぐらいの硬さと弾力が好ましいです。
右上顎第四前臼歯(108)を破折し、露髄していた犬の歯保存症例
今回も、硬いおもちゃを噛んでいて108が折れてしまった症例です。やはり108は最も折れやすい部位なので同様の症例が多いです。
破片が歯肉にひっついて蓋のようになっていました。この状態もよくあります。残った歯と破片の間で細菌が増殖し膿が溜まっていました。
放置しておくとここから歯周病になったり、歯の神経内に細菌が侵入して歯髄炎や根尖膿瘍を起こす危険があります。
神経を抜いて詰め物をしました。表面は光重合コンポジットレジンで覆っていますが、本来の歯の成分であるエナメル質より弱いので硬いものを咬んでしまうとはがれます。犬に与えるおもちゃは柔らかいものがよいでしょう。
根元の茶色い部分は象牙質に色素沈着が起こっていました。
処置の途中で抜いた歯髄です。神経、血管、結合組織が束になっています。
108は歯根が3本あるので歯髄も3本ですが、一つの歯根は小さいので洗浄している内に細かくちぎれて流れていってしまいました。
処置後のレントゲン写真です。根管が拡大されて詰め物が歯根の先まで詰まっているのがわかります。
半年くらいで検診をして、細菌の増殖が起こっていないかチェックします。
回転変位をして萌出した永久臼歯の抜歯
犬にも歯並びというものがありますが、まれに正常とは違う形で歯が生えてくることがあります。
単に見た目が変わるだけなら良いのですが、歯並びが悪いために歯垢・歯石が溜まりやすく、歯周病になってしまうことがあります。
今回の症例は両側の上顎第三前臼歯が水平方向に回転して生えていたために歯周病に罹患しており、抜歯を行いました。
矢印で示しているのが右側の上顎第三前臼歯(107)です。
270°くらい回転して生えているので、後ろの第四前臼歯と重なってしまっています。
この歯の部分に歯肉の炎症と後退がありました。
107を下からみると明らかに回転しているのがわかります。
左側の上顎第三前臼歯(207)です。
こちらは横から見ると変化はあまりわかりません。
207を下からみると約45°回転しています。
通常、これぐらいの回転は特に問題にはなりません。見た目も歯肉の炎症や後退は見られません。
しかし、レントゲンを撮ってみてみると歯根周囲の骨の吸収があり、見えない部分で歯周病が進行しているのがわかりました。
そのためこの歯も抜歯をおこないました。
抜歯後の歯です。
根が2本あるので分割して抜歯しました。
口が小さい犬では歯が生えてくる隙間が少なくて、このような状態になることがあります。
小型犬では特に定期的な歯科検診が必要です。
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