犬 歯科症例 4ページ目
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上顎第4前臼歯の保存治療 その2
以前までの症例で上顎第4前臼歯の症例をいくつか紹介してきました。
症例その1 症例その2 症例その3 症例その4
今回も同様に硬いものを噛んで上顎第4前臼歯が破折してしまった症例です。
若い犬だったので飼い主の希望もあり、保存治療を行うことになりました。
右上顎第4前臼歯の歯冠が破折して露髄していました。
赤く見える点が神経が通っている歯髄です。
放置すると痛みが持続し、また感染の危険に常に晒されます。
歯冠の2か所に穴をあけて神経を取り除く準備をしました。
ファイルという細い金属を歯髄腔に入れて神経を取り除きました。
さらに内部をきれいにするために少しずつ太いファイルにして歯髄腔を広げていきました。
十分に洗浄出来たので、歯髄腔に詰め物をしました。
隙間ができないように確実に詰めることで、今後の感染症を予防できます。
最後に歯冠を光重合レジンで修復しました。
表面を磨いて段差をなくし、はがれにくくしています
レントゲンで確認すると3本全ての歯根に詰め物が入っていることがわかります。
処置前と処置後の比較です。 レジンの色で少し黄色っぽくなりますが、機能としては問題なく使用できます。
骨折につながる下顎歯の歯周病
下顎の歯根は下顎骨の深くまでうまっているため、この部分が歯周病になると下顎骨が薄くなり簡単に骨折してしまいます。
特に小型犬では歯の大きさに対して下顎の骨が薄い傾向にあるので、骨折を起こしやすいです。
下顎第1後臼歯に重度の歯周病を起こした症例です。
大量の歯石に覆われており、原型がわかりません。
レントゲンを撮ると近心根(鼻側の歯根)周りの歯槽骨が大きく吸収されて黒く抜けて見えるのがわかります。(矢印)
赤い丸で囲った部分の骨の厚みが2mm程度まで薄くなっています。こうなると軽い衝撃で骨折する恐れがあります。
反対側の歯と比べると骨の吸収は明白です。
骨吸収が進んでいる歯を放っておくと骨の吸収はさらに進行し、最終的には病的骨折を起こします。そしてそれは治癒の難しい骨折になります。
抜歯を行いました。
抜く際に力をかけすぎるとそれで骨折してしまうので、慎重に抜く必要があります。
抜歯窩を歯肉粘膜で縫合することで歯槽骨の再生をうながします。
しばらくは顎に衝撃を与えないように注意が必要です。
歯根にまで及ぶ破折歯の治療
歯の破折にはいくつかの分類があります。
歯の見えている部分=【歯冠】が折れている状態を歯冠破折、歯茎に隠れている根=【歯根】まで折れている状態を歯冠歯根破折といいます。
また歯の中心の神経=【歯髄】が見えている状態を露髄といい、露髄がない破折を単純破折、露髄がある破折を複雑破折と分類し、それぞれ治療法が異なります。
これらの診断を診察室内の視診だけで判別するのは困難なので、麻酔下でレントゲンなどと組み合わせて診断します。
今回紹介するような歯冠歯根の複雑破折は保存が困難なので抜歯適応です。
左上顎第4前臼歯(208)に破折ラインが見えます。
この状態では破折が歯冠のみなのか、露髄があるのかは判断ができません。
麻酔下で破折片をめくってみました。
かなり大きく割れており、露髄が確認できました。
破折片を取り除き歯肉粘膜フラップを形成しました。
歯根まで破折が及んでいたため抜歯を行うことにしました。
取り除いた破折片です。
歯根部にまで及んでいるのがわかります。
抜歯をしたあと縫合しました。
約2週間で癒合し治療が完了です。
208が無くなることで噛む機能はやや落ちますが、日常生活に支障がでるレベルではありません。
硬いおもちゃを噛んだために切歯が破折した犬の症例
動物(特に犬)は、遊びで興奮したときなどに、渾身の力でおもちゃを噛んでしまうことがあります。
その際に鹿の角や牛の蹄などの硬いおもちゃで遊んでいると、歯が欠けたり折れたりすることがあります。
下の前歯にヒビが入っているとの事で受診した子です。
左下第3切歯(303)に縦に亀裂が入っていました。
レントゲンで確認すると、目視で見えていたヒビの他に歯根にも破折線があることがわかりました。
この歯は保存することが出来ないので抜歯を行いました。
歯根まで折れているので歯肉を切開してフラップを形成してました。
折れた歯根が目視できます。
残っている歯根を丁寧に抜歯しました。
フラップを閉鎖し、縫合しました。
約2週間で癒合が完了します。
抜歯した歯です。
完全に3つに分かれて折れていました。
予防としては、歯が折れるほどの硬いおもちゃで遊ぶのは避けることが一番です。
シリコン製などの柔らかめで弾力のあるものを使って遊ぶのが良いでしょう。
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